幼なじみじゃ、なくなった夜。
「…っごめん涼平!」
ガタ、と立ち上がる。そして財布の中にあった五千円を出そうとしたところで、涼平に止められた。
「いいから早く行け。次回アイツに奢らせるから」
「…ありがとう。私、行ってくる!」
居酒屋を出て、あの日、はじめて榎波の家から出勤したときの記憶を頼りに走る。
もうダメかもしれない。もう遅いかもしれない。
でも、私は断ち切りたい。
榎波と私を繋いでた鎖。無意識に、自分を縛ってた鎖。
何度も自分に言い聞かせてた。榎波はただの幼なじみだからって。
無意識に怖がって、榎波が差し出してくれた手を、つかもうとしなかった。
だけど、私やっぱり榎波の隣にいたい。
ただの“幼なじみ”なんかじゃなく、奴の隣にいたい。