幼なじみじゃ、なくなった夜。
愛理のはやく答えろという視線に追い立てられるように、私は昨晩に記憶を巡らす。
昨夜は、榎波とそういうことになる前に。
ちょっとした事件があった。
「昨日帰ろうとしたら、高島先輩が女の人と手繋いで歩いてるの、見ちゃって…」
高島先輩というのは、営業一課のエース、高島純先輩のこと。
経理部と営業部でそんなに接点はなかったけれど、爽やかな笑顔と、仕事に対する真っ直ぐな姿勢。私の憧れで、その憧れがほのかな恋心へと変わるのに、そう時間はかからなかった。
しかし、恋愛経験も少なく、奥手な私にはそんな先輩を眺めていることしかできず。
愛理に、中学生か!?と突っ込まれながらも、ただただ、先輩の姿を目で追っては、満足していた。だけど…
「手繋いでたのは美咲先輩。2人ともすごく、楽しそうだった…」
美咲先輩は営業事務をしていて、仕事もできるし、何より会社一の美人と評判の先輩だ。
美咲先輩なら、高島先輩ともお似合いだ。あの、高島先輩も好きになるのが納得の、素敵な女性だ。
頭では納得しているのに、だけど…
告白も何もしていないくせに、私は一丁前にショックを受けていた。