極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
『ブーブー』

しばらく数字とにらめっこしていると、携帯電話の着信音が鳴った。
画面には紬の名前が表示されている。

なんだろう。

時計に目をやると時刻は午後11時。


「社長?遅くにどうかなさいましたか?」


別れてから2時間は経つけど。


『寝てたか?』
「いえ。仕事をしてました」


嘘をついても意味ないと本当のことを言うと紬は小さく笑った。


『働き者だな。こんな遅くまで、しかも自宅で仕事をするなんて』


急ぎの仕事でもない限り、普段はしない。


「少し調べたいことがありまして」


そう言葉を濁すと、紬はドキッとするひと言を口にした。


『不正の件か?』
「ど、どうしてですか?」


誤魔化すつもりでも、吃ってしまった。
でも紬は芳川さんに話を聞いたと言う。


『楓になにを言ったのか気になって、伝手を辿って芳川に連絡し、問い詰めたんだ。そしたら不正の隠蔽工作を指南して欲しかったんだと聞かされて、驚いた。それと幻滅した』


淡々とした話し方に感情が読めない。
黙って耳を傾けていると、話しが続いた。


『仲間を大事にするのは分かるが、間違いは正さなければならない。それを懇々と説明して分かってもらった。だから楓が気にする必要はない。それを言いたかったんだ』
「そうでしたか」


私が気にしていたのは芳川さんのことではないけど、芳川さんは『人の心に寄り添える人』だって言った社長の言葉を否定してあげられなかったから、変な誤解が生じたままじゃなくて、良かった。


『こんなことが起きなければ楓に断られようが俺の部屋に連れて行ったのに』


紬の色気漂う低い声に全身が熱を帯びる。
ドキドキして声が出て来ない。

そんな私に気付いていながらも紬は甘い言葉を重ねた。


『今度は帰さないよ。朝まで一緒に過ごそう』


それって、つまりそういうことだよね?
どうしよう。
キスくらいしておきたかった、なんて思いながら、はっきりと言葉にされると妙にそわそわしてしまう。
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