リト・ノート
合唱祭までの1カ月。沙織の伴奏は少しずつ安定し、歌声もよく響くようになった。今年度最後のイベントにクラスの一体感も出てくる。
普段はあんなにかわいげのないリトなのに部屋にいないのは味気なくて、美雨はため息をついてばかりだった。
弟は「なんで貸しちゃったの。返してもらってよ」とうるさかったが、両親は美雨をそっとしておくことに決めたようだった。羽鳥のうちに連れて行った経緯は詳しく話さずに済んでいた。
羽鳥とはクラスメイトとして当たり障りのない話をすることはなくはなかったが、まるでうわべだけの会話だ。
でも羽鳥が何か言いたげに自分を見た気がしたとき、美雨はその視線から逃れて廊下で沙織を追いかけた。
怖いんだ。何が怖いのかはっきりとわからないが、その何かと向き合うのが怖かった。
時間割の短い水曜の午後って以前はなにをして過ごしていたんだろう。制服から着替えながら、美雨は思い出せないでいた。ピアノを弾いて、本を読んで、黙ったままのリトに話しかけていたんだっけ。
図書館にでも行こうかな、とトートバッグを手にしてコートを羽織った。
普段はあんなにかわいげのないリトなのに部屋にいないのは味気なくて、美雨はため息をついてばかりだった。
弟は「なんで貸しちゃったの。返してもらってよ」とうるさかったが、両親は美雨をそっとしておくことに決めたようだった。羽鳥のうちに連れて行った経緯は詳しく話さずに済んでいた。
羽鳥とはクラスメイトとして当たり障りのない話をすることはなくはなかったが、まるでうわべだけの会話だ。
でも羽鳥が何か言いたげに自分を見た気がしたとき、美雨はその視線から逃れて廊下で沙織を追いかけた。
怖いんだ。何が怖いのかはっきりとわからないが、その何かと向き合うのが怖かった。
時間割の短い水曜の午後って以前はなにをして過ごしていたんだろう。制服から着替えながら、美雨は思い出せないでいた。ピアノを弾いて、本を読んで、黙ったままのリトに話しかけていたんだっけ。
図書館にでも行こうかな、とトートバッグを手にしてコートを羽織った。