リト・ノート
少しためらってから、美雨が聞きたいかどうか探るように羽鳥が話し出した。

「お前が見たやつ、何かなって考えたんだけど」

「何かわかった?」

「たぶん前世とか過去生とか言われるやつ。輪廻転生してるって説もあるし、単に昔生きてた誰かの意識の影響を受けてるだけって説もある」

思い出したと言われたし、そういうことなんだろうと美雨も思う。「うん」と頷くと羽鳥は続けた。

「魔女狩りがあった時代って知ってる? 追われた記憶持ってる人がいるって話があって、恐怖心が残ってるんだってさ。お前怖がりだし、ありそうだなと思う。一緒に逃げてたやつがいたって書いてただろ、それがリトだったのかなって」

「そうかも。そんな気もする」

美雨はそれだけ答えて微笑んだ。でも一緒に逃げてくれた人は羽鳥だとわかっていた。手をつなぎ、頭を撫でてくれた人。そんなこと美雨からは恥ずかしくて言えないが。

リトは、捕まった兄だったんだろう。魔女の家に生まれた兄弟。そのせいでつらい目にあっただろうに、それでも「自分の幸せを考えろ」とそう言いに来てくれた。

「会いにきてくれたんだよね」

「だろ。人間でまた会えたら運命の相手って感じだけど鳥じゃあな」

また出会えた運命の相手? ドキン、と美雨の胸がなった。

「え? でも、リトだぞ?」

何をどう受け取ったのか、羽鳥は顔の赤い美雨に呆れたような顔を向けた。

リトじゃないから、と心でつぶやいてそっぽを向いた後、もしかして羽鳥は美雨の恋心になど気づいてないのかもしれないと思った。


図書室前に着くと、じゃあな、と頭をぽんと叩くようにして羽鳥はそのままもと来た通路を戻っていった。

意味なんかないんだろう、背が伸びたから気軽にこういうことができるんだろう。

騒ぐ胸を落ち着かせようと努力した後、他の子にも何気なくやってるのかな、モテるからなぁと気づくとすっと気持ちが落ち着いた。
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