リト・ノート
ノートに書くわけでもないのに、この日の会話を美雨はその後何度も反芻することになった。

自分に合った高校はあの女子校かもしれないが、そうではないかもしれない。羽鳥が言うように大山も合うかもしれないし、そうではないかもしれない。

カリキュラムや校風、部活、いろんな学校を比べても、特にどこか抜きん出て良さそうなところはなかった。母の推しを除いても女子校の環境は魅力的だったし、でも担任が言うようにいろんな人がいる環境のほうが成長できるような気もした。

公立高校の中で大山は狙えないレベルではなかった。

一つ大きく違うとしたら、羽鳥がいるかいないか。

そんな気持ちで志望校を決めてもいいの?と真面目な美雨は自分に問う。

でも本当の本音を言うなら、羽鳥が行くところに行きたい。見ていたい、たとえ苦しい気持ちになっても。やる気を出した彼が走って行く姿を近くで見ていたいと思った。

『自由になりたい』そう言った声をまた思い出す。『絆は切れない』と最後に言ったリトの声もまだ頭の中に響く。

別の学校に行っても、もしかしたら絆は切れないかもしれない。でも私は自分で絆をつなげていきたい。

美雨はこっそり気持ちを固めた。まだ誰にも言わなかった。どちらも受かった上で自分で選びたい。

落ちないように頑張る勉強から、受かるための勉強に美雨の意識が変わった瞬間だった。
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