リト・ノート
羽鳥は競技内容を変えたいと言っていたが、そうは言っても、目前の体育祭に今から手を入れるなんてと美雨は思っていた。
放送委員のくせに体育委員となにか忙しそうに動き回っている姿は見かけた。「今週はパス」と廊下でまた事務連絡のような会話もあった。
でも配られたプログラムにはなにも変更がなく、全体練習の日も大きな動きはない。うまく行っているのか、何をしているのか美雨にはまるでわからなかった。
だが体育祭当日、玉入れ競技になると、なぜか背中に大きなカゴをかついだ一年男子がぞろぞろと入場してきた。
アナウンス席に座った羽鳥が「次の種目は、一年生による移動玉入れです」と朗らかに告げる。
逃げ回る男子を追いかけてカゴに玉を投げ込んでいく競技らしい。代表に実演させながらの説明に笑いが起こった。一年生は急遽練習していたようだが他の学年が見るのは初めてで、どうなるのか全校生徒が注目している。
競技の実況もそのまま羽鳥が担当した。
「各チームのカゴ役は陸上部1年が担当しています。自慢の足を生かして逃げ切ってください。チームが負けた奴は2学期ずっと校庭整備だぞ。がんばれよー」
実況というよりは先輩風を吹かせた脅しのようだが、「陸部がんばれ」と応援席から楽しげな声が飛んでいる。
その後も、「赤組やばそうです。本気で投げてください」「逃げろ、増田! 死ぬ気で走れ」など言いたい放題の実況だったが、なぜかとても盛り上がった。
言葉遣いも悪かったのに、先生達も笑っていて注意される様子もない。