ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「謙信……くん?」

名前を呼んでいる間に、距離を縮めてくる彼は妖艶で視線が釘付けになる。

「すみれ……」

掠れた声で囁かれた私を呼ぶ声に、身体がゾクリと震えた。

キス、されちゃう。

そう思った瞬間唇に触れた柔らかい感触に瞼をギュッと閉じると、啄むようなキスを何度も落とされていく。

初めてのキスに頭の中が真っ白になるけれど、嫌じゃない。だって私は謙信くんのことが好きだから。

最後にチュッとリップ音を立てて離れていく唇。そのスピードに合わせて瞼を開けると、色気を含んだ彼の眼差しに息が詰まる。

そして次に目がいってしまうのは、さっきまで重なり合っていた唇。

私……謙信くんとキスしちゃったんだってじわじわ自覚していき、顔が熱い。

それでも彼から視線を逸らせず、至近距離のまま見つめ合っていると、不意に彼の親指が私の下唇に触れた。

「キスしたこと、謝らないからな」

「……えっ」

「可愛すぎるすみれが悪い」

かっ、可愛すぎるって……! 目を見開きどんな顔をしたらいいのかわからなくなる。

すると謙信くんはまた苦し気に顔を歪めた。
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