ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「本当に大丈夫だから。……母さんから言ってきたんだ。なにもいらないからって」

「え……そうなの?」

ハンドルを握る彼を見ると、頷いた。


「すみれのために料理はもちろん、美味しいケーキやお菓子をたくさん準備しているからいらないってさ。……太る覚悟していけよ。すっげぇ食わされると思うから」

「そんな……」

むしろありがたいお話だ。いろいろと用意して気遣ってくれて。

少しだけ緊張が解れたところで、謙信くんの実家に着いた。

実は彼の実家を訪れるのは、これが初めてだった。会うのはいつも我が家だったから。

駐車場に車を停め、先に降りた謙信くんに続いて降りると、足を止め見上げてしまうのは彼の実家。

立派な門の先にはオシャレな三階建ての家が佇んでいる。

「行こう」

「あ……うん」

純和風な我が家とは違い、モダンなデザインの家。

彼がインターホンを鳴らすと、すぐにモニターからおばさまの声が聞こえてきた。

「いらっしゃい、すぐ開けるわ」

すると家の中からパタパタと駆け寄ってくる足音が響く。

緊張でドキドキする中、勢いよくドアが開かれると、エプロン姿のおばさまが出迎えてくれた。
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