ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
おばさまは昔からなにかと私のことを気にかけてくれていた。

おじいちゃんの古くからの生徒さんで、週に一度は必ずお稽古で訪れていたからかもしれないけれど、私はいつも感謝していた。

おじいちゃんには言えない成長過程の悩みや相談にも乗ってくれた。『いつでも頼ってね』って言ってくれた。

そんなおばさまだからこそ、自分の気持ちを知っていてほしい。


「あの……っ! 本当に困ってなどいませんから。……それに私はずっと小さい頃から謙信くんのことが好きでした。だから今回の話を聞いた時は驚きましたが、すごく嬉しくて幸せでした」

「すみれちゃん……」

本当に信じられなかった。ずっと私の片想いのまま終わり、報われることなどないと思っていたから。

いつか諦めなくちゃいけない日がくるとさえも覚悟していた。でも奇跡が起こったんだ。

きっと謙信くんはおばさまの言うような気持ちで、私と結婚しようと思ったわけではないと思う。

それでも私は彼のそばにいたいと願った。

「謙信くんといっしょにいられて、今の私はすごく幸せなんです」
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