ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
それに昔の俺なら誘われれば、断ることもなく付き合っていたけれど、今は違う。

相手が誰でもいいわけではない。……そういうことをするなら、すみれとって思うから。

ふと昨夜のことが脳裏に浮かぶ。嫌になるほど覚えている彼女のぬくもり。初めて彼女から抱き着かれ戸惑った。

すみれとだって身体の関係を持つことができると、信じて疑わずにいたけれど……本当にできるのだろうか。

抱きつかれただけで理性が飛びそうになった。これまでだったら自分の思うがまま抱いてきた。

けれどすみれに対してはそうは思わない。……幼い頃から知っているからこそ大切にしたい。

大切にしたいからこそ、簡単に関係を持つことなどできない気がする。

想いを巡らせていると、どうやら難しい顔をしていたようで、すみれは不安げに俺を見ていた。

「や、やっぱり言わない方がいい?」

「え? あ、いやそんなことないよ」

ハッとし慌てて笑顔を取り繕う。


「悪い、ちょっと考え事していただけだから。……さっきも言ったけど、俺はずっと公表してもいいと思っていたからかまわないよ」

そう言うとやっとすみれの表情は晴れた。
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