ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「あのね、謙信くん……。私から内緒でって言っておいてあれなんだけど……」

そこまで言うと落ち着きをなくし、目を泳がせるすみれ。

「どうした?」

食べる手を止め尋ねる。

彼女の緊張がこちらにまで伝わってきて、俺まで身構えてしまう中、すみれは真っ直ぐ俺を見据え言った。

「あの! 謙信くんと婚約中でいっしょに暮らしていること、……沙穂さんに話してもいいかな!?」

「え? ……沙穂さんってすみれの……?」

最近俺が嫉妬するほど仲が良い先輩だよな?

すみれがあまりに緊張しているから、どんなことを言われるかと思えば。

「ど、どうかな?」

いまだにビクビクしながら俺の様子を窺うすみれ。

「どうもなにも、俺も前から言っているだろ? すみれと婚約中のことを公表してもいいって」

すみれと結婚したいと思った時からずっと考えていた。

それに俺にとっても、その方が助かる。社内で女性社員から遠回しに誘われたり、外出先や取引先で迫られて、断るのに困ることもなくなる。
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