ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。

「謙信くんのお弁当！　いつも自分の分は作っているんだけど……その、できれば謙信くんにも食べてもらいたいなって、ずっと思っていたの。だからその、作ってみたんだけど、今日もし会社でお昼過ごすなら……っ」

俺にランチバッグを差し出したまま話す彼女の腕は、小刻みに震えている。それを見たら話し途中で申し訳ないけど、ランチバッグを受け取った。


「ありがとう。今日は特に外出予定ないから」

「え……っ」

ポカンと口を開けて俺を眺めるすみれに、口元が緩む。

「それに俺、ずっと思っていたんだ。すみれは俺の分の弁当、作ってくれないのかなって」

からかい口調で言ったものの、みるみるうちにすみれは表情を崩しハニかんだ。

「よかったっ……！　えへへ、嬉しいな。夢だったの、謙信くんに私が作ったお弁当を食べてもらうのが」

満面の笑みで本当に嬉しそうに話す彼女に、胸が苦しいくらい締めつけられた。

なんだ、これ。どうして胸が苦しくなる？

初めて感じた痛みに戸惑いを隠せない。それでもどうにか声を絞り出した。