ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「そ、っか。それじゃこれからは毎日作ってくれる?」

するとすみれは興奮気味に距離を近づけてきた。

「本当!? いいの!?」

「……あぁ、すみれが大変じゃなければ」

「全然だよ! じゃっ、じゃあ今度なにか食べたいものあったら教えてね! お弁当に入れるから」

「わかったよ」

どうしたというのだろうか。嬉しそうなすみれの顔なら、今まで何度も見てきたというのに。

どうしてこれほど胸を苦しくさせられる?

答えを見出せないまま、いつものように会社近くまで彼女を車に乗せ向かった。



「あれ、専務珍しいですね、お弁当だなんて。ご婚約されていたことを私に報告した途端、さっそくおノロケですか?」

この日の昼休み。仕事も一区切りついたところで、すみれが作ってくれた弁当を広げると、秘書の池田さんがからかい口調で聞いてきた。

「別にノロケてなどいませんよ? ……たまたま今日、作ってくれただけです」

「そうですか、それは失礼しました。ではお茶を淹れてきましょう」

口ではそう言っているくせに、池田さんは笑いをこらえている。
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