ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
人生経験豊富で結婚して何十年も経つのに、今も毎日弁当を作ってくれる奥さんがいる池田さんにだから。

彼を見ると、よほど驚いたのか瞬きせずに俺を見ていた。

その視線に耐え難くなり、ふと逸らしたとき。彼は「ふっ」と笑った。


「そうだったんですか。……あれほど遊ばれていらした専務だったので、そっち面は充分大人だと思っておりましたが、赤子だったんですね」

赤子って……。事実ながらその言い回しに悪意を感じるのは、俺だけだろうか。

「ですが専務は人を好きになる感情がわからないと言いますが、もうわかっていらっしゃるんじゃないですか?」

「え?」

「だってそうでしょう? なんとも思っていない女性と結婚したいなど、普通なら思いませんから。ましてや守りたいだなんて。……それは間違いなく好きって気持ちですよ」

そう、なのだろうか。俺がすみれに抱いている感情は〝好き〟というものなのだろうか。


「もちろん守りたいって思うだけが、好きって気持ちではありません。愛しい、可愛い、いっしょにいると楽しい。そういった感情はもちろん、時には信じられないほど負の感情を抱くこともあるものです」
< 183 / 251 >

この作品をシェア

pagetop