ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。

「一弥くん待って！　どうして急に来たの？　だって一弥くん、私のこと嫌いだったよね？」

思わず声を荒げると、彼はピタリと足を止め振り返った。そしてやっぱり感情の読めない顔で私を見つめてくる。


一弥くんとは幼い頃は、仲が良かった。遊びに来るといっしょに遊んだし、謙信とより歳が近く、年下ってこともあり私は勝手にお姉ちゃん気取りしていた時期もあった。


けれど大きくなるにつれて会う回数は減っていき、彼が思春期を迎える頃、私は彼に嫌われ始めた。

会っても口を利いてくれなくなったし、面と向かって言われたのだ。

『俺、すみれのこと嫌いなんだよね』って。それは私が高校一年生の時だった。

それから一弥くんとはお正月やお盆時期に会っても一言も話さなくなり、年に一度、お正月に顔を合わせるだけの関係だった。

それなのになぜ？　どうして急に会いにきたり、こうやって普通に話し掛けてくるの？

嫌いって言ったのはそっちなのに。

歩道で立ち尽くしていると通行人の邪魔になり、気まずいままふたりで端へ移動すると、一弥くんはポツリと呟いた。