ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「でもひとりになったら私が可哀想だから結婚を決めたなら私……っ!」

言葉に詰まる。零れ落ちた雫は頬を伝い、慌てて手で拭った。

「そんな優しさ、残酷すぎるよ。……辛いっ」

胸が張り裂けそうなほど苦しい。


最初はどんな形でもいいから、謙信くんのそばにいたかった。なのに、いっしょに暮らし始めていろいろな彼を知って、もっと好きになって……。

好きになればなるほど、欲張りになるばかりだった。謙信くんに人を好きになる幸せな気持ちを知ってほしい。

彼が初めて好きになる相手が自分であってほしい。……そして今は、同情で結婚なんてしてほしくないと。

好きだから、大切な人だから。……私を強くしてくれた人だからこそ、対等でいたい。

お互いのことを知って好きになって普通の結婚がしたい。いつからかそう願うようになっていた。

それに私はもう、謙信くんに守ってもらわないと生きていけないような、弱い人間でいたくない。

それを謙信くんも望んでくれたんじゃないの? だから私を突き放してくれたんだよね? 同性の友達を作れって言ってくれたんだよね?

それなのに、どうして――?

想いはとめどなく溢れるばかり。
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