ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
大きな声で聞いてしまうと、電話越しの伯母さんはクスリと笑った。

『お義父さんも、すみれちゃんに会いたがっているわ。……もし大丈夫ならいらっしゃい』

「は、はい! すぐに行きます!!」

電話を切り、慌てて出掛ける準備に取り掛かる。

よかった、本当によかった! おじいちゃんが目を覚ましてくれて……!

洗面台の前で髪を整えている途中、ハッとする。

そういえばもう朝。……もしかして謙信くん、部屋にいる?

時刻は朝の七時過ぎ。いつもだったらとっくに起きている時間だ。

けれどさっきからずっとこの家の中に、私以外の人の気配を感じられない。


もしかして謙信くん、昨夜は帰ってこなかった? それとも私が寝ている間に帰ってきて、そして家を出て行ったのだろうか。

恐る恐る彼の書斎と寝室のドアをノックして開けてみるものの、やはり謙信くんの姿はなかった。

それに寝室に彼が寝て起きた形跡もない。……もしかして昨夜は帰ってこなかった? 私がいるかもしれないから?
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