ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
自分を変える大きなチャンスとわかっていても、やっぱり人と話すのは苦手で、視線が泳いでしまいうまく答えることができない。

「えっと、ですね……」

ど、どうしよう……! 業者さんすごく困っている顔をしている。

そう思えば思うほど、うまく口が回らなくなる。

「あの……」

痺れを切らした業者が声を上げた時だった。

「すみません、遅くなってしまって。なんでしょうか?」

聞こえてきた声と同時に抱かれた肩。すぐに横を見れば隣には謙信くんの姿があった。

「謙信くん……?」

あれ、謙信くんは謙信くんで自分の荷物を新居に運ぶと聞いていたのに、なんでうちに?

驚く私を余所に、謙信くんは引っ越し業者に聞かれたことに、すらすらと答えていく。


「もしかしたらまだ僕のほうが頼んだ業者さんが終えていないかもしれないのですが、お互い荷物は少ないので搬入してください」

「わかりました。では最後に部屋の確認をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「はい」

先に家に入っていく業者さんに、謙信くんは私の肩を抱いたまま「行こう」と促してきた。

「う、うん」
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