ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「それは小さかったから……!」

「それに夫婦になるんだから、見られることにも慣れてもらわないと」

白い歯を覗かせた謙信くんに、たまらず彼の元へ駈け寄りグイグイと背中を押した。

「あ、おい! なんだよすみれ」

「もう着替えるから出ていって!」

「恥ずかしがることないだろ?」

「恥ずかしいです!」


そんなやり取りをしている最中も謙信くんをドアの方へ追いやり、部屋から閉め出した。

「着替えたらすぐ行くから待ってて」

一方的に言いドアを閉めると、ドアの向こう側から笑い声が聞こえてきた。

「わかったよ、待ってる」

その一言にからかわれていたんだと知る。

足音が遠のいていくのを確認すると、深い溜息が漏れた。

「……もう」

トボトボとクローゼットへ向かう。

謙信くんとは幼い頃は頻繁に会っていたけれど、大きくなればなるほど、会う頻度が減っていった。

だからいまだに私の中の謙信くんは、子供の頃のやさしい面影が強く残っている。

お互い大人になってから、こんなにたくさんの時間を共に過ごすのは初めてかもしれない。
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