ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。

「すみれがこの先、人と普通に話せるようになったら？　きっと世界が広がると思う。……そうしたら好きな相手ができるかもしれない。それはうれしいけど、俺は少し寂しくも思うから」

胸が苦しくて苦しくて、呼吸がうまくできない。

彼は私のことを好きじゃない。けれどそんなこと言われたら、嫌でも望みを持ってしまうよ。

もしかしたらこの先の頑張り次第では、謙信くんが初めて好きになる相手は私かもしれないと。

だからこそこのまま自分の気持ちを言ってしまいたくなる。

私はずっと前から謙信くんのことが好きだって。今も、きっとこれから先もずっと。


でもそれを伝えたら彼を困らせてしまうはず。人と話すことが苦手な私に好きな人はいないと謙信くんは思っているようだし。けれどこれだけは伝えたい。

トクントクンと鳴る胸の鼓動。それを必死に鎮めながら彼を見据えた。

「私も同じだよ……？」

「え？」

「私も初めて好きになる相手は、謙信くんならいいなって思ってるよ？」

「すみれ……」