君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

ワゴン車は30分ほど走り、到着したのは"Nロイヤリティーホテル"というN市の中では一番大きなビジネスホテルだった。

「すみません、 橘さん。いつもはご実家の方に帰られている事は知っていますが、今日の事でスケジュールが押していて、かつマスコミ対応もしなければならないので、すぐ様共に行動ができるよう数日は我々とホテルに滞在してください」

ホテルの待合室スペースで、田代と呼ばれていた男性が李人に申し訳なさそうに言う。

「………大丈夫ですよ。 元はといえば、僕がロケ地から遠いのに実家から通いたいと無理を言っていたんですから。お気になさらないで下さい」

李人はそんな田代に柔らかな笑みを浮かべた。 それを見た田代は、安堵したのか胸を撫で下ろし、目を輝かせ李人を見る。

「僕、本当に橘さんと仕事ができて嬉しいですよ。何があっても穏やかで、優しくて………僕らのような新米のADにも丁寧に対応して下さる。 さっきのファンの方々の対応にも胸を打たれました」

「アハハ、そこまで褒められると何か照れますね」

「いや、さっき俺もお前の行動を止めようとしたが………あのファンへの対応は見事だった。まさに"ピンチをチャンスに変えた"ってやつだな。
ーーー流石だよ、李人。お前は必ず将来、スターズを背負える俳優になる」



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