君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー


「それが………、始めは僕もアルバイトの先生には少し荷が重いかなと思って、 畑中さんにお願いしたんだ。

そしたら、瀬名様の奥様にアルバイト講師のプロフィールも見せて欲しいと言われた。………すると、希望が笹原さんだったんだ」

「そ、そうだったんですか………」

まさかの指名という事実に優葉は驚いた。

「申し訳ない。笹原さんには荷が重いかなと思ったんだけど………。何せ相手が相手だから断れなくてね………」

「そうですよね………」

地元密着型の塾が、地元で有力な国会議員の意に反することを言えば、どうなるか優葉でも容易に想像がつく。

いつもは穏健な田倉の表情も、困惑の色を見せていた。

「………分かりました。 受け持ったからには私の生徒です。 全力で指導させて頂きます」

「ありがとう、笹原さん!僕達も笹原さんが少しでも楽になれるよう全力でサポートするよ」

「ありがとうございます」

そうだ。生徒の両親が何だろうと、先生として接するからにはその生徒の事を第一に考え、全力で指導する。

きっと、それだけだ。

優葉はそう気力を奮い立たせると、掃除を再開した。

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