君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

「………顔をあげなさい」

「………っ」

そう田倉に言われ、 恐る恐る優葉が顔を上げると、田倉はふぅ………っと長いため息をついて優葉を見た。

「………仕方ないですね。 畑中さんや他の先生方にも相談して何とかしましょう。 随分、反省もしているようですしね」

「ありがとうございます………!」

優葉は、田倉にこれでもかというほど頭を深く下げた。 ーーーそして、そんな優葉の姿を見た田倉はクスリ、と微笑んだ。

「本当に、笹原さんはいつも生徒や目の前のことに一生懸命で真面目、という言葉を己で体現している先生なのに………。 珍しい事もあるものですね。明日は、雷雨か、台風でしょうか?」

「そ、そんな………」

「ですので、笹原さん。 二度目はありませんよ。10月には沢山、働いてもらいますからね? 生徒達もあなたを大分慕ってますから。 ーーー特にあの子。 瀬名 和泉君」

「………!」

和泉の名前が、不意に田倉から出た途端………優葉の心臓はドクンと大きく嫌な音を立てて全身に響き渡った。

その場で、 冷や汗をかきながら固まってしまった優葉に気付かない田倉は話を続ける。


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