君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

『ったく………、そんなに従姉妹と仲良いのか? 彼女を池袋に迎えに行くために朝から夕方まで、 舞台稽古に、CM撮影に、映画の番宣に………って分単位のキツキツのスケジュールを組んで見事にこなすとは。
まあ、それだけ自己管理が出来てるならこのクソ忙しい業界では素晴らしい事なんだが………。
しかし李人。 ………お前、人間やめた?』

本日の仕事が終わった際に、 李人をマンションまで車で送り届けた斉木は、運転席で項垂れ、疲れ果てた姿でそう李人に言った。

(………斉木さんには、無理をさせたな。 でも、 どうしても優葉を迎えに行きたかった。
撮影が終わって埼玉を離れてから……….そして、付き合ってから始めて優葉と会うんだから)

そう思った李人の心は、自然と浮き足立つ。
優葉に会える事を思えば、斉木とこなした本日の地獄のようなスケジュールも李人にとっては朝飯前だった。

「………まだ、夢を見てるみたいだ。優葉が俺の彼女だなんて………」

李人は、そう人前で呟くが、白の半袖カットソーにネイビーのライトデニムジョガーパンツを着用し、 つばが深めのブラックのサファリハットを被り、
黒縁の伊達眼鏡を目に掛けている李人は人気俳優にしてはあまりにもラフな格好で顔もそんなに見えない為、誰も李人の事を気に留めるそぶりはなかった。

元々、李人は事務所で散々、街に出る時の変装、振る舞いについてはレクチャーされてきたので誰だろうと騙せる自信はあるが、今日は優葉が来る為李人は人一倍、変装に気を遣った。



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