君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
(優葉が俺の彼女だとバレたらマズイのもあるけど…….…。 やっと………手に入れた優葉との大切な時間を誰にも邪魔されたくないからね)
そう思い、李人は更にハットを深く被った。
ーーーずっと、ずっと李人にとってこの世界で何よりも大切で、愛しい女性。
ーーーやっと、手に入れた想い。
その優葉との貴重な時間を誰にも奪われたくない、と思うのは李人にとって自然な事だ。
そして、優葉を待っている間ーーーやがて李人は、優葉と想いが通じあった日を回想し始めた。
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『………クソ。 どうして、連絡がつかないんだよ………』
埼玉での映画撮影も、クランクアップが間近に迫った8月の終わり。
李人は、R町花火大会の日から優葉に何度も通話アプリでメッセージを送信していたが 既読にすらならないという事実に苛立ちと不安が募っていた。
『橘君! どうしたの、最近? 入れ込むべき感情がどこか遠くになってるよ!もう一度、最初の台詞から!』
『………申し訳ありませんでした。 次こそは絶対に外しません』
『ああ、頼むよ。しっかりしてくれ。主役だろう!』
今まで、李人の演技や仕事ぶりを絶賛していた映画の監督やスタッフも………李人のどこか安定しない演技に疑問を抱き始めていた。