君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
(………目の前の演技に集中すべきなのに………、それが最優先であるのに………。 できない。 優葉の事を………考えてしまっては。 やっぱりあの花火大会の日から避けられてるのか………?)
『俺はっ………優葉にあんな事をすべきじゃ無かったのかもしれないっ………』
李人は、その日の撮影と仕事をどうにか終えると着替えを取りに実家の自室に戻り、抱えていた後悔の念を吐き出すように口にしていた。
(あの日、瀬名といた優葉に嫉妬して………優葉の気持ちも確認せずに………キスをしようとしてしまった。
それが、 優葉を俺から遠ざけたのか………? それとも、別な理由が………? )
『ああ………駄目だ。 どんどん深みに嵌っていく』
李人は、考えを巡りに巡らせ、そして頭を抱えた。
(他の人間が何を俺にしても………例え、 どんなに偉い映画監督でも、テレビ局の役員でも、役者であっても………常に幾らでも冷静に、"俳優 橘 李人"を良く見せる為、愛想と笑顔を振る舞える余裕があるのに。
優葉の事になるとこんなにも………余裕がなくなる………)
『優葉ッ………。どうして、 何も言わないんだッ………』
そう李人は思いのままに呟くと、何かしないと落ち着かず、気付けば通話アプリを開いていた。