君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

「俺自身で………信頼できる人間を見つけて、 夢も持つ。櫂兄さんの為にも………、優葉の為にも」

「っ、うん………」

優葉は、その和泉の決意を聞いた時、嬉しさで泣きそうになった。

初めて会った時、人との深い繋がりを拒否し、 何もかも諦めたような冷たい目で優葉の握手を拒んだ和泉。

それを思えば、 教師としても、彼を大切に思う一個人としても優葉の喜びはひとしおだった。

「嬉しい………。とても、今、私嬉しいよ………瀬名君」

「………っ」

そう言った優葉の身体を益々和泉は強く抱きしめる。

「っ、瀬、名君………っ? あのっ………」

「………お願い。今はもう少しだけ………抱きしめさせて。"優葉"って名前で呼ばせて。 ちゃんと、明日からは生徒になるから。今は………アンタを好きな一人の男っていう立場だけになりたい」

「瀬名君………っ」

「 好き………優葉。
俺の心を明るい方へ導いたアンタが………好きだよ。 ありがとう………」

そう言って………和泉が、心からの甘い想いと感謝を打ち明ければ、優葉は胸を打たれ、 和泉の抱擁を拒否する事など出来なかった。


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