君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

「………そんな訳ないだろ」

二人の会話が聞こえた李人は、挨拶回りの途中で無意識にそう呟いていた。

「? 橘さん? どうかしましたか?」

「………いや、何でもありません。 鈴木さんもありがとうございました。 鈴木さんの美術セットのデザイン力には感動しました」

李人はそう言ってまた微笑むのだった。 


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「橘さん!」

一通り挨拶回りを終え、楽屋で荷物の整理をしていた李人に一人の女性が声をかけてきた。

今回、李人の相手役だった今最も勢いのある若手女優だ。

容姿ももちろん申し分なく美しく、爽やかさもあり彼女に憧れる女性が巷では多いと李人は聞いていた。

「北原さん。 どうしましたか?」

「いや、その………。 特に用事はないんですけど。 橘さんと今日が最後だって思ったら………何だかいても立ってもいられなくなっちゃって」

そう言いながら、彼女は李人を潤んだ瞳で見つめた。

「………橘さん。 私、橘さんのことが好きです」
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