クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「ご覧になると、けっこう感動しますよ。特に今年は、毎年上の子たちがやるのを見て憧れていた『南中ソーラン』をついにできるんです」

「ふーん」

「有馬さん!」


私は彼がロッカーの上で頬杖の杖にしていた手をぐいと引っ張った。支えを失った顎ががくんと落ち、「わあ?」と素っ頓狂な声があがる。


「見にいらしてくださいね、ぜひ」

「まあ、保護者不在ってのもかわいそうなんで、行きますけど」

「もっと前向きに!」

「昔から疑問だったんですけど、"先生"っていう人たちって、なんでみんな、そんな熱血なんです?」


あなたがたに熱が足りないからそう見えるだけですよ!と言いたいのをぐっとこらえ、「いいから来てください」と念を押した。

私の推しが理解できないのか、有馬さんが目をぱちぱちさせている。


「返事は!」

「はい、行きます」


条件反射のような感じで答えてから、足元の律己くんに「怖いな、エリカ先生」と首をすくめてみせるので、腹が立ってしまった。


「律己くんも、やる気出して見に来てってお父さんに言ってあげて!」

「怖、怖。さ、帰ろう律己」


ひょいと荷物ごと律己くんを抱っこし、ささっと玄関のほうへ行ってしまう。


「こら!」


追いかけたときにはもうガラスドアの向こうで、後ろ向きに抱えられた律己くんが、幸せそうににこにこしながら私に手を振ってくれた。

手を振り返している最中に、有馬さんが顔だけこちらを振り返る。

ぱっと手を背中に隠し、笑顔も消してふんと冷たい表情をしてみせた私を見て、おかしそうに破顔し、暮れかけた日の中を、マンションのエントランスのあるほうへ折れていった。

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