クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
* * *


「今ごろ、お父さんと楽しく過ごしてますかねえ、律己くん」


原本先生が不織布を切りながら小声で言う。

園児たちが昼寝をしている横で、運動会の衣装づくりに励みながら、私は「きっとね」と頷いて返した。

ひとりひとりのサイズに合わせた不織布のベストやワンピースに、ゴムを通してマジックテープをつけ、装飾をする。行事の前はこういった針仕事的なものから運営の準備、プログラムの作成、練習、ダンスの振付、保護者への告知など、あらゆる種類の雑多な仕事が降りかかってくる。

早め早めに手をつけて、なるべく日中に手早く済ませないと、残業どころか持ち帰って徹夜になりかねない。


「私、前の園の園長が既製品を使うの禁止って方針で。なのにいろんなこと決めるのが常に後手後手で! もうスタッフは悲鳴あげてばかり。最悪でしたよ」

「園長の采配は大事だよね」


私はこの園が保育士としての最初の勤め先なので、ほかの園を知らない。系列園でも園長によってかなり運営方針が違うと聞く。いずれ私も異動して、ほかの園に行くことがあるだろう。


「エリカ先生はキャリア組だから、すぐに園長候補になるんじゃないですか?」

「そのへんは本部にお任せするけど、もう少し勉強の時間が欲しいなあ」

「年寄りの園長のほうが安心、なんて信仰もいまだにあるみたいですけどね、若い園長のほうが断然いいですよ。頭柔らかいし、機器もパソコンも使えるし、保護者に対して偉そうにしないし」


それでいくとうちの園長は年配のほうにあたる。私は「しー」と軽口をたしなめ、子供たちがぐっすり寝ているのを横目で確かめた。

そのとき、インターホンが鳴らされた。


「はい」


事務室に行き、壁のモニターで応答した。画面には見たことのない男性の姿が映っている。スーツ姿で、30代後半か40代に入ったところだろうか、落ち着きなく視線を動かしていた彼は、私の音声を聞き、はっとカメラのほうを見た。


『あの…こちらに、有馬律己はおりますか』

「え?」


私の声に、不審がる響きを感じ取ったのかもしれない。彼の表情に警戒の色が浮かび、このままやりとりを続けるかどうか、迷っているような様子を見せる。
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