クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「あの後、すぐ連絡があって。とりあえず電話でその意向だけは伝えたいと」
「でも、あの、お姉さんとは、いったいどういう」
「それ以上の話は聞いていないんです。電話でする話でもないと思いましたし」
スニーカーのかかとを人差し指で引っ張って、まるで普通の世間話みたいな調子で有馬さんが言う。
「えっ、有馬さんは、なんてお返事したんですか」
「そうですか、って」
「…それだけ?」
「『前向きに考えておきます』とでも約束しておくべきでしたかね?」
からかうように、ちょっと眉を上げてそんなことを言う。
ああ、と気がついた。
彼も、動揺しているんだ。軽く、笑いに紛らせるしかないくらい、今の事態を受け止めかねていて、混乱していて、葛藤している。
見つめる私に、彼がはっと笑いを消し、それから戸惑ったように視線を揺らし、表情を曇らせ、ふいと顔をそむけた。
「…会うセッティングをしているところです。向こうがなかなか忙しい上、昼間ちょっと抜け出す、みたいなことがしづらい職場みたいで、少し先にはなりそうですが。俺も考える時間が欲しいので、かえってちょうどいい」
「有馬さん…」
「母にはなにも言っていないので。万が一会うことがあっても、黙っていてもらえますか」
「もちろんです」
私が勝手になにか言うことなんて、絶対にありません。
思ったよりも意気込みが声に出てしまい、私が勇み立つことでもないのにと慌てて反省したところで、静かな視線に気がついた。
有馬さんが、じっと私を見ている。
「エリカ先生」
呟きみたいな呼びかけだった。
「…はい」
返事をしたものの、有馬さんはなにかを言うでもなく、どこか困っているような表情すら見せて、ただ立っている。
「でも、あの、お姉さんとは、いったいどういう」
「それ以上の話は聞いていないんです。電話でする話でもないと思いましたし」
スニーカーのかかとを人差し指で引っ張って、まるで普通の世間話みたいな調子で有馬さんが言う。
「えっ、有馬さんは、なんてお返事したんですか」
「そうですか、って」
「…それだけ?」
「『前向きに考えておきます』とでも約束しておくべきでしたかね?」
からかうように、ちょっと眉を上げてそんなことを言う。
ああ、と気がついた。
彼も、動揺しているんだ。軽く、笑いに紛らせるしかないくらい、今の事態を受け止めかねていて、混乱していて、葛藤している。
見つめる私に、彼がはっと笑いを消し、それから戸惑ったように視線を揺らし、表情を曇らせ、ふいと顔をそむけた。
「…会うセッティングをしているところです。向こうがなかなか忙しい上、昼間ちょっと抜け出す、みたいなことがしづらい職場みたいで、少し先にはなりそうですが。俺も考える時間が欲しいので、かえってちょうどいい」
「有馬さん…」
「母にはなにも言っていないので。万が一会うことがあっても、黙っていてもらえますか」
「もちろんです」
私が勝手になにか言うことなんて、絶対にありません。
思ったよりも意気込みが声に出てしまい、私が勇み立つことでもないのにと慌てて反省したところで、静かな視線に気がついた。
有馬さんが、じっと私を見ている。
「エリカ先生」
呟きみたいな呼びかけだった。
「…はい」
返事をしたものの、有馬さんはなにかを言うでもなく、どこか困っているような表情すら見せて、ただ立っている。