クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
やがて彼は視線を地面に落とし、落ち着かなげに重心を片足からもう片方の足へと移動させ、ジーンズの後ろポケットに指をかけ、「俺」と小さな声で言った。


「こんなに、誰に相談しても仕方なくて、とにかく自分ひとりで考えるしかないことって」


途方に暮れたような自嘲を漏らす。


「世の中にあるんだって、初めて知りました」


かける声が見つからず、立ち尽くす私に、目を合わせず軽く会釈だけして、彼は行ってしまった。

Tシャツの上に羽織った、襟付きのシャツの裾が風に煽られて広がる。夏がもう終わるのだと、なぜかそのとき唐突に感じた。

有馬さん。

そしてなお考えても、かける言葉は見つからない。

励ます言葉も、安心させてあげられる言葉も。

有馬さん。

心配することしかできなくて、ごめんなさい。


* * *


ピッ、と清々しい笛の音が、澄み切った青空を渡っていく。

屋外用のひどい音響設備のおかげで、奥行きもへったくれもなくなったにぎやかな音楽。子供も大人も一緒になってあげる歓声。常にどこかしらで発生している泣き声。

運動会だ。


「緊張してる人ー?」


入場口の手前で、かわいらしい小人の衣装をつけた三歳児クラスの子供たちに声をかけてみる。

素直におずおずと手を挙げる子、強がって鼻で笑う子、すでに硬直している子。反応はさまざまだ。

最年長クラスの子たちがプログラム名をアナウンスする。入場の音楽が始まると、さんざん練習した成果で、全員が反射的に足踏みを始めた。


「さ、行ってらっしゃい」


ひとりひとり送り出し、ベルトのマジックテープが取れかかっている子を見つけ本人にも気づかれないレベルの手際で瞬間的に直してあげる。
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