クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
私は驚いた。

園ではそこまでの変化は感じないけれど、もしかしたら、律己くんは少しずつ、口数が増えているのかもしれない。


「ですね、なにかしらあいつなりのトピックがあれば、ぽつぽつとですが、向こうから話しますよ」

「そうなんですね!」

「エリカ先生のダンスが微妙なのは、園児たちの間でも知られた話みたいです」

「律己くん、今日も元気に過ごしてました。午前中は動物公園に行きまして」


無視して活動報告を始めた私に、有馬さんが忍び笑いを漏らす。

その視線がなにかを捉え、ふっと優しくなった。律己くんがリュックを背負ってやってきたのだ。


「バイバイ、律己くん。また明日ね」


彼はにこっと微笑んでこちらに手を振り、有馬さんと並んで帰っていった。

少しの間玄関ドアに寄り掛かって、それを見送った。

有馬さんは葛藤することに慣れてしまったのかもしれない。安斉さんが姿を現したと聞いた瞬間から、すでにきっと始まっていた葛藤。

ううん、もしかしたらもっと前。律己くんと暮らすことになったあたりから、もやもやとそれは存在を露わにしつつあったんだろう。

答えを出すことから逃げもせず、先延ばしにすることもせず。その理性的な潔さが、かえって彼自身を苦しめているようにも思える。

有馬さんは、どの道を選ぶんだろう。


* * *


「あれっ」


日曜日、新設の集合住宅の中にできた、新しい公園をチェックしに行ったら、同じ考えの人で溢れた園内に、見慣れた親子を見つけた。


「律己くん、有馬さん」


汽車の形をした遊具で遊んでいた律己くんと、見守っていた有馬さんが同時に振り向く。


「あれ、こんにちは」

「こんにちは。よくこの公園、ご存じでしたね」


律己くんが一度遊具の中に消え、滑り台になっている部分から出てきた。

こちらに寄ってきて、私に笑いかけながら、妙に照れくさそうにお父さんの足元に絡みつく。登園していないのに保育士に会ったという事態が、少し恥ずかしいんだろう。

有馬さんはいつも通りのジーンズ、Tシャツ、それにパーカーを羽織った姿で、ポケットに親指を引っかけてそんな律己くんを見ている。
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