クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「天気いいし、ぶらっと出てきたら、通りすがりのお母さんたちの集団が、ここのこと話してるの聞こえてきて」

「アンテナも訓練されてきましたね」

「ほんとですよ。昔なら耳に入ってくるわけない情報なのに。こうやって所帯じみてくんですかね」


ため息をつく姿に笑ってしまった。


「先生も偵察ですか?」

「はい。園の外遊びで、使えないかなと思って」


昨今、公園と名の付く場所であっても、それじゃほとんど"子供禁止"じゃないか、と言いたくなるようなルールを設けているところも多い。

園児が集団で時間を過ごしても近隣の迷惑にならないか、遊具の対象年齢は適正か、園からのルートは安全か、等々、目で見て確かめないことには始まらないのだ。


「ん、なんだ」


律己くんが、有馬さんが持っている小さなリュックの中を探り、水筒を取り出した。さらに中からなにか出そうとしたのを、有馬さんが「座るか」と公園の隅のベンチを指さした。

座るなり律己くんがリュックから出したのは、ラップに包まれた丸いおにぎりだった。一度私に見せびらかしてから、満足そうにかぶりつく。

微笑ましく見守っていたら、その向こうの有馬さんと目が合った。


「…俺だって精進してるんですよ」

「知ってます」


気恥ずかしそうに、むくれた声で言った彼が、「え、なんで?」と今度は目を丸くする。私は「内緒です」とそれを受け流した。

律己くんを間に挟み、子供たちの声でにぎわう公園を眺める。


「にしても、すごい人ですね」

「みんな新しい遊び場を探してますからね。マンションがどんどん建って、子供たちも増えてますし」

「確かになあ」とここからも見える真新しいタワーマンションを見上げて、有馬さんがうなずいた。

「今度は小学校が足りないみたいですよ。律己くんが行くところも、この数年で児童数が急増して、去年校舎を増築してます」

「小学校」

「あ、学区のです。受験とかするなら、別ですけど」


有馬さんは「受験」と繰り返し、ぽかんとしている。きっと律己くんを永遠の保育園児だと思っていたに違いない。
< 162 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop