クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
有馬さんが、律己くんの父親でい続けることを決めてから、時は少し流れ、12月に入った。

先月の末、有馬さんは誕生日だった。登園してきた律己くんがそれを教えてくれたので、制作の時間を使って絵手紙を書く手伝いをした。迎えに来た有馬さんは、律己くんからそれを受け取ると、そそくさと帰ってしまった。

翌日、律己くんに聞いたら、『泣いてた』とあっさり教えてくれた。隠しても無駄なのにねえ、とふたりでひそひそ笑った。

有馬さんは射手座か。まっすぐな自由人。うん、そのまんまだ。

園児たちは健やかにすくすく育ち、平穏な日々。

今日の発表会が終われば、月のお誕生会とクリスマス会を経て、冬休みだ。


「私、戻りますね。これ、ほんとにいりません?」

「いりません。あ、先生」


ホールの横の通路で、有馬さんがなにげなく周囲を確認した。保護者が数組、ロビーでくつろいでいるほかは、誰もいない。


「今日の夜、うちに来られませんか」

「夜、ですか?」

「はい、律己が寝てから」


無邪気なその誘いに、甘い匂いはない。

なにか話でもあるのかな、と内心で首をかしげつつ、私は「はい」とうなずいた。


「大丈夫です。片づけは夕方には終わりますし」

「よかった。律己が寝たら連絡します。だいたい9時頃…あっ、失礼」


ドアが開き、人が出てきた。

私はほんの少し身構えた。翔太くんのお母さんだったからだ。

彼女は一歩通路に進み出てきて、なぜか私と有馬さんの中央で立ち止まり、ちらっ、ちらっ、と左右に目を動かす。

なんだこの間。


「翔太くんのはじめの言葉、立派でしたね」


私が声をかけると、顔をこちらに向け、にこっと顔をしかめる感じで笑った。次いで有馬さんのほうを見て、もの言いたげな目つきを投げてから、お手洗いのほうへずんずんと歩いていった。

有馬さんが、女教師に睨まれた問題児よろしく、「けっ!」という目つきをその背中に投げている。どうも、微妙な関係らしい。


「それじゃ、後ほど」

「あ、はい」

「この後のプログラムで、律己くんが演目を読み上げますので、聞き逃さないでくださいね」

「絶対泣くやつじゃないですか。俺、すでに母に相当呆れられてるんですけど」
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