クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
そんな、赤い目で文句を垂れられてもですね。

私はティッシュボックスを抱え、舞台裏に戻った。

人のことを言える立場じゃない。私も子供たちの立派な姿に涙が溢れ、手が空いた隙に泣きに出てきたところなのだ。

本当にもう、子供の成長というものは大人を泣かせる。ここに来るまでの苦労を思い出して、というのもあるけれど、それよりも育つという現象そのものに、人を感動させるまばゆい力があるのだと思う。

日々の大変さや、言うことを聞かない子供の憎たらしさを少しだけ忘れて、今日はその光を感じてほしい。

発表会は、保護者に向けたそんな場だ。




「わあっ、かわいい!」


思わず歓声をあげてしまってから、ベッドで寝息を立てている律己くんの存在を思い出し、慌てて口を押さえた。


「平気ですよ、律己は一度寝たら起きませんから」


有馬さんが笑う。

私はドアの隙間から、もう一度部屋の中を覗き込んだ。

元は寝室だった個室が、子供部屋になっているのだ。奥の壁は落ち着いたブルーに塗られ、背の低い家具たちは優しいナチュラルウッドと、差し色にやっぱり青。

木製のベッドの上では、律己くんが枕とまったく関係ない場所に頭を置いて、蹴散らしたタオルケットと絡み合うようにして眠っている。


「あの壁は?」

「この間、律己と塗ったんです。休みの日に、遊び感覚で」

「有馬さんはどこで寝るんですか?」

「律己と使ってたベッドを書斎のほうに入れました。あいつはまだひとりで寝たがらないので、子供部屋のほうで寝ることも多いかもしれませんが」

「喜んだでしょう、律己くん」

「そう見えましたけどね。なにか飲みます?」


ドアをそっと閉め、有馬さんがリビングのほうへ向かった。


「あ、じゃあ…」

「ビールもありますよ、先生の好きな」

「私、毎日晩酌してるわけじゃありませんから!」

「隠すことないじゃないですか」


隠してませんし!
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