クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「…ありがとう」

「でもわざわざ、エリカみたいな優秀な子がやらなくてもよかったと思うわ、もったいない」

「じゃあどんな仕事ならもったいなくなかったの」

「そうねえ、安定した会社で、ちゃんと総合職に就いて、女性でも能力があれば上に行ける環境の下で」


自分のことよね、それ。

私は苛立つのにも疲れ果て、過剰なほどの感謝を述べて母を部屋から追い出した。

母の視界には彼女自身しかいない。彼女が見ているのは、常に自分だけ。

そのことに気づいて、なにを求めても無駄なのだとあきらめがつくまでに、期待しては裏切られ、思わぬところで傷つき、私はもう疲れた。

疲れた…。


* * *


「いったいなにがあなたがたの仕事なんですか? 高いお金払わせといて!」


出勤したら、園の玄関で、二歳の園児を連れたお母さんが園長と保育士を相手に金切り声を上げている最中だった。

うわあ…厄介なところに居合わせた。

私は後ろをそっと通って、着替えるためにロッカールームへ向かった。ただでさえ手が足りなくなる登園の時間帯。ああして保育士の手が止められてしまうと、子供たちを見る人間が足りなくなる。

急いでジャージに着替えエプロンをつけて、廊下へ出た。そこではまだ言い争いが続いていた。


「あれこれ理由つけて預からないって。それで保育費だけ取るって、詐欺じゃないの」

「でも、今日はお熱が…」

「熱くらい出ます、子供なんだから! とりあえず預かって、これより高くなるようなら電話してください。午前中は休めないんです」

「ですが、いつもと体調が違うときは、お母さんといるのが一番で」

「聞き飽きたわそれ。都合のいいときだけそう言うのよね。くだらない寄付とか行事で、ただでさえいらない負担が増えてるっていうのに」


これはもう、この場で解決する話じゃない。仕事を休めないお母さんと、規則で預かれない保育園の間で、折り合いのつくポイントなんてない。どちらが折れるかだ。
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