クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
様々な可能性を考えたら、私のしたことは確かに軽率だった。まあ感染症の兆候が少しでも見えていたら、あの場でお父さんごと家に帰していたと思うけれど、今からそれを言ったって始まらない。


「こういうことを気にする保護者の方もいる、と覚えておくしかないわね、慎重に、臨機応変に行動しましょう」

「はい」


お互いすっきりしない気持ちを抱え、業務に戻った。

私は、どうかこの一件が有馬さんの耳に入りませんようにと祈った。

きっと彼は、気に病んでくれてしまう。


* * *


「あらっ、お久しぶりです!」

「ご無沙汰しております。すみません、息子が面倒をおかけして」


降園の時刻、杖をついて現れたのは、なんと律己くんのおばあちゃんだった。

もうお加減はいいんですか、と聞くのがはばかられるくらいには歩くのがつらそうで、だけどにこにこ微笑んでいる。

私は手を貸そうと、玄関に迎えに出た。


「とんでもないです、お父さん、頑張ってらっしゃいますよ」

「そうかしら、もう、だめな息子で。今日だって熱が出たからって言って、老いて腰を痛めた母親をこうして使うのよ、いたた」

「えっ」


有馬さんが、熱?


「あ、こちらでお待ちください。今、荷物を持ってきますから」


わざわざ部屋の中まで歩かせるのはよくない。私は保育室に戻り、律己くんに声をかけた。


「律己くん、おばあちゃんがお迎えに来たよ」


絵本を読んでいた律己くんは、目を丸くする。


「お父さんがお熱なんだって、お風邪かなにか?」


彼も初耳らしい。しきりに首をかしげている。
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