クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「よく、わかりません」


やがて彼は、そう言って小さく笑った。

その笑顔はさみしそうにも見えた。


「そうなん…きゃっ!」


私は悲鳴をあげた。外で、バケツかなにか、一抱えはありそうなものが派手に転がり、どこかにぶつかったような音がしたからだ。

子供たちが目を覚ましたかと心配したけれど、大丈夫だった。


「なんだろう、片づけてこないと…」

「俺、行きます」


腰を上げかけた私の肩を、有馬さんが優しく、けどそれなりの力で押し戻した。

部屋を出ていく背中を見て、喉が渇いていることに気づき、話しすぎたな、と少し反省した。

非常時の他愛もないおしゃべりと、忘れてもらえたらいいけど。

有馬さんはすぐに戻ってきた。


「あれでした、いつもマンションの脇にある、車止め用の看板。危ないんで、とりあえず中に入れてきました」


濡れた前髪と顔を、渡したタオルで拭きながら言う。


「ありがとうございます」

「雨も風も、全然衰えてないですね。ここに来るまでは足の速い台風だったのに、急に居座ってる感じ」

「明日の朝もいろいろ混乱しそうですね」


そのとき、んー、と莉々ちゃんが身じろぎし、ライトから顔をそむけるように寝返りを打った。


「あ、まぶしいかな…」


私は彼女たちから一番遠いひとつを残し、もうひとつのライトも切った。

こうなると部屋の角も影に落ちてしまい、境目がわからなくなる。訪れる闇と、静寂。

ほんのわずかな明るさを頼りに、もといたところに腰を下ろした。隣に有馬さんも座る。
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