クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「先生、寝てください。下手したら明日もこのまま勤続でしょ」

「そうですね…」


今朝は早番だったので、実のところかなり眠い。子供たちが寝ているうちに、私も体力を回復しておかないといけない。

だけど、もうこの部屋に大人が横になれるスペースはない。


「俺に寄り掛かっていいですよ」


見たところで暗くてたいしてなにも見えないのに、思わず横を向いた。

微笑んでいるな、というのがうっすらと気配でわかる。

ぽかんと、ぼんやり顔らしきものがあるあたりを見上げていると、ぐいとその頭を引き寄せられ、温かい肩に顔がぶつかった。

それは子供を甘えさせるみたいな、さっぱりした仕草で、それでも私は、一瞬頬が熱くなる感覚があったのだけど、暗いし、どうせ見えていないし、と思うと身体の力が抜けた。


「なんならひざも貸しますよ」


有馬さんのおどけた口調に、ぷっと吹き出してしまう。


「ここでいいです」


首を振り、そのついでに頭が安定する位置をぐりぐりと探した。肉のない肩は、高さこそ十分なものの、油断すると頭が転がり落ちてしまう。

彼もそれにつきあってくれて、私はすぐに落ち着く場所を見つけた。


「有馬さんも休んでくださいね」

「そうします」


すぐ近くから声がする。私の頭のてっぺんの髪は、きっと彼の頬に触れている。

わずかに身動きしたとき、ふと、床に置いた手に、温度を感じた。

ほんの少し先に、有馬さんの手がある。

急に室内が静まり返って、その中に自分の鼓動だけが響いているような気がした。いや、鼓動はふたつある。私のと、彼のと。

必死に抑え込んでいるような、ひそやかな呼吸。

指先が、かすかにカーペットの毛足を引っかく音すら聞こえるような、耳障りなほどの静寂。

有馬さんも、同じ音を聞いていたんだろうか。

温かい手が重なってきた。

指が回り込んで、私の手のひらと床の間に入ってくる。私は手を浮かせ、彼の手のひらを迎えた。指が絡んだ。
< 91 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop