クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「今日、来てくれたのが有馬さんでよかったです」


彼は不思議と、なにも答えず、ただ短く鼻をすするような音だけが聞こえ。


「おやすみなさい」


照れ隠しなのか、早口で、小さくつぶやくようにそう言った。




父の背中におぶわれているような夢を見ていた気がする。

男の人の気配、張った筋肉、頼もしい骨格。手のひらを包む温度。

そんなふわふわした安心感の中で、ゆっくりと自分が覚醒するのを感じた。

とたん、はっと緊張した。

いや、私がしたんじゃない。誰かが緊張した気配に、神経が反応したのだ。


「──律己」


私を寄り掛からせていたのも忘れてしまった様子で、有馬さんが壁から身体を起こした。視線の先を追って、私も息をのんだ。

律己くんがいない。

莉々ちゃんだけが、仰向けにのびのびと寝ている。その身体に白い光が降り注いでいた。夜が明けたんだ。


「律己!」


有馬さんが跳ね起きるように立ち上がり、戸口から左右の廊下を見る。私も起きて、彼が向かったのと逆の方向に向かった。

玄関は大丈夫だ。あの錠は子供の背丈では開けることができない。明るくなったとはいえ、まだ風の音がごうごうと鳴っている。

調理室、倉庫、と鍵がかかっているのを確認し、保育室を覗いた。


「律己くん!」


広い保育室の窓際に、うずくまるようにして小さな律己くんが丸まっていた。

私は駆け寄り、彼がくうくうと寝息をたてているのに気づいて、安堵のあまりその場に崩れ落ちた。

足音がして、息を切らした有馬さんが駆けてくる。
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