クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「変電所がやられたらしいね。かなり広範囲の停電だったって。でも夜で助かったよね。寝ちゃえばよかったし」


目が泳いでいるのを自覚しながら、そうだね、と我ながら適当に同意した。


「倉田がこっちにいるとはなあ。今、なにやってんの?」


高校の頃、私は男の子と会話するほうじゃなかった。話しかけられて一言二言返す、くらいがせいぜいで、穂高くんともほとんどしゃべった記憶がない。

だけどお互い社会人経験を積んだせいか、不思議と社交的な会話がいくらでもできる。これはきっと、学校という閉鎖的な場所を離れたせいもあると思った。

常に周囲の目があるあの学校という檻の中では、"男子と気兼ねなく話せる女子"というのはもう誰と誰、と決まっており、それ以外の子がそういう行動を取ったらそれは異質と映り、とても目立つ。

思春期というのはそういう特異な環境の中で、いかに他者から傷つけられず生きていくか、それが命題だった。気がする。


「保育士」

「え、マジで? どこかでかいとこ勤めてなかった?」

「辞めて、保育士になったの」

「へええ」


彼が目を丸くした。心底意外そうではあるけれど、その驚きは好意的だ。たぶん例の、保育士=子供好き=母性的、みたいな図式のおかげで。


「ずいぶんチャレンジしたんだね」

「やってみたくて」

「それにしても、まだ独身の奴、けっこういたね」


確かバレー部だった、爽やかな長身がおかしそうに笑う。そう言う彼も独身で、驚いたことに高校のクラスメイトの約半数がいまだに結婚していなかった。


「今度、独りの奴だけ集まって飲もうって話になったんだ。友だちとかも呼んでさ、倉田もどう?」


おお、それはいわゆる…と思ったところで、電車が駅に着き、私のすぐそばのドアが開いた。急いで端に寄ったものの、乗り込んできた人とぶつかってしまい、「すみません」と慌てて謝った。

相手は無言でこちらを見返してきた。なんだ不愛想な人だな、と思いつつ、気分を害しているようならもう一度謝ろうと顔を見て、仰天した。向こうもしていた。

有馬さん。
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