クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
驚愕に見開かれた目が、私を上から下まで見て、それから隣に立つ穂高くんに移った。こっちがひやひやするほど、視線が真正直に彼を観察し、一瞬、はっきりと目を合わせて、それからふいとそらされる。

有馬さんは挨拶の言葉を投げるでもなく、動き出した車両の中を横切り対面のドアまで行くと、座席との仕切りに背中を預け、携帯を取り出した。

こちらには少しの興味も示さない。


「…知り合い?」

「あ、えっと…」


そういえば、今日も律己くんは保育園にいるはずだ。この駅に、有馬さんの職場があるんだろう。

私は穂高くんに、「園児のお父さんなの」と小声で説明した。

不躾な視線をもらったお返しか、穂高くんが「へえ」と言いながら、遠慮のない仕草で有馬さんをじろじろと見る。

私は彼の袖を引き、やめて、と訴えないとならなかった。

そこから二駅で、私の降りる、すなわち有馬さんも降りる駅についた。

有馬さんがいたほうのドアが開き、彼はさっさと降りていってしまう。


「連絡するよ、またね」

「うん、バイバイ」


私は穂高くんに手を振り、なんとなく有馬さんの背中を探し求めながら駅のホームに降り、改札に向かうエスカレーターに乗った。

『お父さんなの』か。

実際はそうではなかったのだ。いや、ある意味ではそうなんだけど。


──親は自分の子を通して、自分の人生を肯定したい。そういう意識は、多かれ少なかれ、どこかに必ずある気がします。


あれは、誰のことを想って言っていたんですか、有馬さん。

ご自身のことじゃないですね。だってあなたは、律己くんと自分の関係を、そんなふうに言い切れるほど整理できているようには見えなかった。


「有馬さん」


改札を出たところで彼を見つけた。

声の届かない距離ではないはずなんだけど、呼びかけても彼はまったく反応せず、すたすたと駅舎を出ていく。私は駆け寄って腕を取った。


「有馬さん、少しお時間ありますか」
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