阿倍黎次は目立たない。(12/10更新)
#1 日野歌澄は美しい。
阿倍黎次(アベ・レイジ)。このごくありふれた名前を名乗り続けて、俺は15年生きてきた。これといった思い出もなく、通っていたかどうかすら怪しい小学校時代を経て、地元の中学校に通い、バスケ部に所属。バスケ部の大会ではいつも大体予選3回戦で敗北、成績は中間クラス。地理的に近いというだけの理由で選んだ中間層の高校に合格し、今日から通うこととなっている。

平田市立平田第一高校。校門に刻まれたその名前は、実際何度も耳にしてはいた。「黎次」と名乗っているだけあって、俺には兄がいる。阿倍琉一(アベ・リュウイチ)。今はこの高校で生徒会長をしている兄は、平凡な人生を送ってきた俺とは違い波乱万丈な人生を送ってきたのだが、それはまたおいおい話すことにする。

高校生活が始まるとはいえ、特に期待もしていなかった。俺の人生はずっと平均的で、今のところそれに対する不満もなかった。変に目立って平均以下になるよりは、平均でいた方がいい。世に言う「草食系」というやつかもしれない。だから入学式も一瞬で終わった。

「…はい、今年度1年C組の担任をさせて頂く根津恭爾(ネヅ・キョウジ)です、よろしくお願いしまーす」

担任の根津は、教師歴1年そこらと思しき若い男だった。よく言われる「輝いた目」をしている彼は、俺から見ても熱血教師に映った。

「じゃあ、皆にサクっと自己紹介してもらおうかな。出席番号1番の…阿倍から」
「はい」

俺の平均でない点を強いて挙げるとするならば、出席番号が大体1番になることだ。入学やクラス替えの度に、自己紹介が最初になる。でもそこで特別印象に残ることを話すわけでもないから、最初というのも相まって俺の自己紹介は埋もれてしまう。そう考えると、これもまた平均的なのかもしれない。

「阿倍黎次です。平田中学出身です。バスケやってましたけど、大して上手くないです。誕生日は10月8日で、好きな食べ物は餃子です。よろしくお願いします」

と、このような具合で俺の自己紹介は終了。だが、俺はこの後、耳を疑いっ放しになることとなる。
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