阿倍黎次は目立たない。(12/10更新)
その日の放課後。俺はある部屋の前に立っていた。

「はい」

ドアの向こうから、家で何度も聞いた声がした。

「黎次!?」

生徒会室のドアから出てきたのは、兄貴だった。

「兄貴、ちょっと話がある」
「おう……悪い、皆、ちょっと席外すわ」

今回の件は、一応生徒同士の問題とも言える。その言い分がどこまで通用するかは分からないが、生徒同士の問題なら生徒会へ、という発想を得たのだった。

「……なるほど……」
「生徒会の力がどこまで強いのかは分からないけど、何かできそうなこと、ある? この所、日野は学校に来てないし、放っておけば俺に飛び火するかもしれない」
「……」

恐らく、生徒会長が兄貴でなかったら、そもそも生徒会のドアを叩きはしなかっただろう。無理な頼みだということは、重々承知していた。

「最初に言っとくけど」

廊下の窓から、兄貴は夕日を眺めていた。

「生徒会は、全然強くないぞ」
「……やっぱりか」
「やっぱりって何だよ……まあいいけど。それで、何をしたらいい?」
「……無罪の証明。難しいとは思うけど」
「あー、もっと具体的なことをだな……」

そうは言っても、具体策を思いつくはずがなかった。そんなのがあったら、俺は今頃とっくに日野を助けている。

「……よし、ここで俺達だけで話していても詰みだ。人手、増やしに行くぞ」
「え?」
「黎次、お前、部活入ってなかったろ? 生徒会も、一応部活だ」
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