クールな御曹司の一途な独占欲






本部長はこの日、予定通り面会や視察には行ったけれど、その後「書類に目を通して下さい」と言っておいたはずの午後の時間には姿を消していた。

今もまだ戻らない。

行き先は言われていないけれど、その書類は特に急ぎではないため血眼になって探すこともなかった。

でも本部長はできるだけこの本部長席に座っているような人だったのに、こんなことは初めてだ。

もしかして私と一緒にいたくないからだろうか、と考えてしまったけれど、そしたらきちんとそれなりの理由を伝えてから姿を消すはず。


『ちょっといいかい』


本部長室の扉の外から、かすかに声が聞こえた。


「はい」

「入るよ」

「社長?すみません、本部長は留守にしていますが」


中に入ってきたのは本部長の父、森下社長だった。

年のわりにダンディーで、若い頃は本部長に似ていたんだろうということが分かる顔立ち。

私は本部長の秘書になる前はこの人の秘書だったわけだけど、ここ最近は会っていなかったため見た瞬間にピンと背筋が伸びた。


「涼介のヤツ、逃げたのか。この時間はここにいると踏んで来たのに」

「・・・あの、本部長が何か?」

「うん、ちょっとね、お得意様に失礼なことを言ったようで」


そんなことがあるだろうか、あんなに社交的で、失言なんてとても無縁の人付き合いをしていた本部長なのに。

私が見ていたかぎりではなかったから、電話で?

私が秘書室にいないわずかな時間に電話をかけたなんて不自然だけれど。


「土田社長から私あてに相談の電話があってね、ちょっと涼介を問い詰めなきゃならない」


─土田社長?


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