マドンナリリーの花言葉
「これは、エミーリア様ではありませんか。夜会でお会いできるとは」
「エーリヒ様こそ。今日は第二王子と近しい年代の方をお呼びする会だと聞きましたが、どうなさったの?」
「娘が呼ばれましてね。世間知らずなものですから、お目付け役として残っている次第ですよ」
「あら、そうなの。あちらがお嬢様ね。可愛らしいこと」
エミーリアは奥のテーブルで話しかけてきた男性に頬を染めている令嬢に視線を送った。
エーリヒに面差しがよく似た、凛々しい印象の令嬢だ。
「それにしても、こちらのご令嬢はどなたですか?」
エーリヒは平然を装って話しているが、声がかすかに震えていた。パウラはぎくりとして顔をうつむける。
「……私の遠縁の娘よ。夜会に出たことがないというから、社会勉強のつもりで連れてきたの。今日の招待客ではないから、お気になさらないで」
「気にしないなど無理でしょう。これだけの美貌で。……少し話をさせてはいただけませんか?」
ローゼはびくついたが、エミーリアが庇うように前のめりになった。
「エーリヒ様。お嬢様がいるときにあまり軽率な行動をなさらないほうがいいわ」
「いや、そういう意味じゃない。ちょっと確かめたいことがあるだけなんだ」
エミーリアはにっこりしたまま首を振る。エーリヒは軽く舌打ちをしてディルクの腕を引っ張った。
「どうされました、エーリヒ様」
「ディルク君だろう? ちょっと来い。話がある」
「ですが私も仕事中です」
「君の父親に関することだ」
そう言われて、ディルクは一瞬体をびくつかせた。
「父の……?」
「そう。あの頃君はクレムラート家に入り浸っていたものな。知らないだろうことを教えてやる。ちょっと来るんだ」
「しかし」
「いいわよ。ディルク。私たちはこの部屋から出ないから」
エミーリアに言われ、ディルクはローゼに心配そうに視線を送ってから、エーリヒについて会場を出た。