マドンナリリーの花言葉


結局、パウラはアンドロシュ子爵家に嫁入りを果たした。年の離れた結婚に、息子であるエーリヒの家族はこぞって反対したが、アンドロシュ子爵は、わざわざパウラのための屋敷を建て、人形遊びでもするようにパウラで遊んでいた。

アンドロシュ子爵には、ピグマリオンコンプレックス(人形偏愛症)という性癖があったのだ。
子爵とパウラの間に男女関係があったかどうかは、エーリヒは知らない。しかし、子爵はかつてひどい熱病にかかり、この先、子は望めないはずだった。

しかし、早々にパウラの妊娠が発覚する。
起こるはずのない妊娠に、アンドロシュ子爵は怒り狂った。パウラを別邸に閉じ込め、辛辣に責め立てたのだ。


エーリヒはパウラに同情していた。まだ若い身空で、初老の男のもとへ嫁がされたのだ。羽目を外したくもなるだろう。
それが名もない画家との子だと知ったエーリヒは、彼女の生きる希望にはなるだろうと必死に「子供だけは産ませてやってほしい」と父親に懇願した。

彼のその行動はアンドロシュ子爵に、疑惑の芽を植え付けた。

パウラの腹の子の父親はエーリヒではないのかと疑い、復讐のために生まれた子をすぐに捨てようとした。
それを予想していたエーリヒは、事前に数人の侍女を協力者としてもぐりこませ、殺したと見せかけて子供を救い出したのだ。
侍女に金をやり、子爵家からは離れたところで何とか子供を育ててやってほしいと送り出した。

子は助かったものの、それをパウラに教えるわけにはいかず、結局死産だったと報告した。

見るからに消沈した彼女は、その後精神を病んでしまった。ふさぎ込み、不健康そうな肌色をしたまま、アンドロシュ子爵の望む人形として生きていった。

エーリヒは彼女を救えなかった気まずさから屋敷に寄り付かず別邸に居をうつす。
それから数年、エーリヒは本家とはあまり付き合いを持たなかった。

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