マドンナリリーの花言葉

クラウスに話を振られて、フリードは慌てて背筋を伸ばす。


「記録がなかったのです。てっきり祖父の記録管理があやふやなのかと思っていましたが」

「いや、そうじゃない。あの舞踏会の翌日から、俺とギュンターはアンドロシュ家の内情を調べつくしたんだ。子爵の手口はいつも一定だ。金に困っている貴族に融資し、儲けが見込めると投資話を持ち掛ける。しかしその投資先にも子爵の手が回っているんだ。相手がその気になって事業に投資したとたんに子爵がその投資先から手を引く。それによって事業は回らず破たんへの道をたどる。子爵は融資金の利子という形で没落していった家から根こそぎ金目の物を奪うという寸法さ。彼が築いてきた財は、そういう薄汚れた金なんだ」

「なっ」

「同様の手口で君はクライバー子爵家も追い詰めた。いつもと違ったのは、そこに人形のような美しい少女がいたってことさ。まだ社交界にも出ていない、誰の手あかもついていない娘だ。君の好みだったんだろう。彼女――パウラ嬢を手に入れるために、時間をかけ、クライバー子爵家から信用を勝ち取り、機が熟したところで突き落とした」


アンドロシュ子爵の顔が真っ赤になる。クラウスを睨みつけるが、彼のほうはびくともしていない。


「貴族が結婚した場合、領内の上位貴族に報告するものだ。しかし、伯爵本人はともかく、当時のクレムラート伯爵夫人は潔癖な人物だ。成人とも認識されていない娘との婚姻には異を唱えかねない。だからそもそも届を出さず、噂のような形で結婚の事実を広めた。もともと君は引きこもりで通っていたようだから、伯爵も追及しなかったんだろう。……そして後はクライバー子爵家を没落させればいい。そうすれば彼女を助け出す人間などいなくなるから、婚姻の届けがなくても問題は起こらない」

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